大原則 ── 単一正本 → 公開射影(ヘッドレス方式)
連携設計で最初に決めるべきは「データをどこに、いくつ持つか」である。結論は明快 ── 名店マスター(社内・106社)を唯一の正本(マスター)とし、手形アプリはそこから"公開してよい情報だけ"を射影した派生ビューにする。 誌面・アプリ・ホテル送客は、別々のデータベースではなく、同じ1つのマスターを別チャネルへ出しているだけ。これにより二重管理(同じ店の情報を2か所で別々に直す事故)を構造的に消す。
① 正本は1つ
店の情報は名店マスターにのみ書き込む。住所が変わったら、直すのはマスター1か所だけ。
② 出力は射影
誌面・アプリ・ホテル案内は、マスターから「そのチャネル向けの項目だけ」を機械的に書き出した結果。手で写さない。
③ 同期は自動
マスターが更新されれば、公開シート → アプリへ自動で反映。人の転記作業をゼロにする。
データの流れ(全体図)
社内 / 公開の切り分け ── フィールド単位・ホワイトリスト方式
射影で最も重要なのは「どの項目をアプリに出すか」をフィールド(項目)単位で決めることである。原則はホワイトリスト方式(既定は非公開) ── 何もしなければ全項目が非公開、明示的に「公開」と指定したフィールドだけを書き出す。
3区分のフィールド一覧
| 区分 | 対象フィールド | 扱い |
|---|---|---|
| 🔴 社内のみ アプリに一切載せない |
累計出稿額 / 直近出稿額 / 契約種別 / 広告ランクラベル / ポテンシャル / 次アクション / 営業担当 / 継続途絶ステータス / 手形適性の理由 | 物理分離。公開シートにこれらの列を一切作らない。営業・経営の機微情報であり、加盟店・観光客・競合の目に触れてはならない。 |
| 🟢 公開 アプリ・誌面・ホテル案内へ |
店名 / 業種 / エリア / 住所 / 緯度経度 / GoogleマップURL / 公式サイト / 紹介文 / タグ / 写真 / スタンプ対象フラグ | 明示公開。観光客が店を見つけ・行くために必要な情報のみ。ホワイトリストに載せた項目だけが射影される。 |
| 🟡 内部スコア 順位算定に使うが数値は非公開 |
世界観適合度 / 手形適性レベル / ホテル送客親和性 / 評価 | 計算には使い、数値は出さない。これらのスコアでアプリ内の表示順を決めるが、スコアそのものは観光客にも加盟店にも見せない(順位の根拠を外に出すと操作・苦情の温床になる)。 |
広告順・ランクづけ ── 2層分離モデル(信頼と収益の両立)
アプリで「どの店を上に出すか」は、収益化の核であると同時に最大の地雷でもある。ここを誤ると、利用者の信頼を一度で失う。他社の事例が、その境界線を明確に教えてくれる。
他社事例の教訓
食べログ(2016年の論点)
「課金額でオーガニック(自然)順位を操作しているのでは」という疑念が表面化し、信頼問題に発展した。教訓:自然順位そのものを売ってはいけない。順位を金で動かせる仕組みは、見えた瞬間に媒体の信頼を破壊する。
Google マップ
自然な検索結果(オーガニック)と、明確に「スポンサー」ラベルを付けた広告枠を、別レーンとして併置している。教訓:広告は売る。ただし"広告である"と明示し、自然順位とは別の場所に置く。
百名店 / ミシュラン
掲載や星は課金とは独立した編集・評価の軸で決まる。だからこそ権威(バッジ)として機能する。教訓:課金と切り離した認証バッジは、売り物ではなく信頼の源泉になる。
設計:3つのレーンを分離する
| レーン | 決まり方 | 課金 | 表示 |
|---|---|---|---|
| ① オーガニック順位 | 世界観適合 + 評価 + 手形チェックイン実績 + 距離/関連性 で自動算定(内部スコア 🟡 を使用) | 売らない | 通常の一覧・地図表示。利用者にとっての「素直な並び」を保証する。 |
| ② スポンサー枠 | 加盟ティア(後述の会員ランク)に応じて上位固定・特集掲出 | 売る | 「PR」ラベル必須。オーガニックとは別枠・別レーンとして明示し、広告であることを隠さない。 |
| ③ 言問名店バッジ | 編集局による認証(選定基準に基づく)。課金とは独立した軸 | 独立 | 店に付与する認証マーク。課金では買えない権威。掲載順位とは別の信頼シグナル。 |
売れる広告商品 ── 会員ティアと直結
レーンを分離したうえで、加盟店に売る具体的な商品を設計する。いずれもオーガニック順位ではなく、枠・掲出・認証・データを対価とする。価格は既存事業計画の会員ティア試算に整合させた水準。
スポンサー枠 ¥120,000/年〜
アプリ内の「PR」表示付き上位掲出・特集枠。オーガニックとは別レーンとして広告であることを明示。スタンダード会員ティア相当。
詳細LP + クーポン ¥120,000/年〜
店ごとの詳細ページ(写真・物語・メニュー)と、アプリ会員向けクーポンの掲出。来店動機を作り、手形チェックインへ繋げる。
言問名店バッジ ¥36,000〜
編集認証マークの付与・掲出(ライトティア相当)。課金とは独立した審査を通った店のみが対象。権威の可視化による送客効果。
送客レポート ¥360,000/年 最強の差別化
手形チェックインの月次来店データを PDF で提供。「この店に、いつ、何人が実際に来店したか」を可視化する。プレミアム会員ティア相当。
価格は既存の事業計画(会員ティア:ライト¥36k/スタンダード¥120k/プレミアム¥360k・年額)の推計に基づく。実勢は営業による検証が前提 推計。
実装方針 ── 既存資産の再利用(新規DB禁止)
この連携は新しいデータベースを作らない。既にある資産(名店マスター・エンリッチ処理・手形スプレッドシート・Glideアプリ)を組み替えるだけで成立するよう設計する。新規構築を最小化することが、最短・最低コスト・最少事故での実装になる。
| 構成要素 | 方針 |
|---|---|
| 正本 | 名店マスター(JSON・106社)。スキーマを拡張せず既存のまま使う。店の全情報はここにのみ書く。 |
| 射影 | 既存のエンリッチ処理を「公開射影」に拡張し、手形スプレッドシートの公開シートへ公開フィールド(🟢)だけを書き出す。ホワイトリストはこの処理に1か所だけ定義する。 |
| アプリ | 既存の Glide アプリが、その公開シートを読むだけ。アプリ側に新規開発はほぼ不要。 |
| 逆流 | 手形チェックイン → 名店マスターの「来店実績」へ日次集計。マスターに新規フィールドを1つだけ追加(来店実績)。これが送客レポートと順位の原資。 |
リスクと留意
個人情報の最小化
観光客は匿名で扱う(個人を特定しないチェックイン集計のみ)。インバウンドが大半(約95%)であり、海外の個人情報保護法(EUのGDPR・台湾の個人資料保護法など)の射程に入りうる。そもそも個人データを集めない設計が最も安全。送客レポートも店単位の集計のみで、個人を出さない。
PR表示・景品表示法 / ステマ規制
2023年施行のステルスマーケティング規制により、広告は「広告である」と明示する義務がある。スポンサー枠・PR掲出には必ず「PR」ラベルを付け、編集(自然順位・バッジ認証)と広告を明確に区別する。これはレーン分離(03章)と一体の遵守事項。
社内データの物理分離
🔴 社内項目(出稿額・営業担当など)は、公開シートに列として存在させない。「非表示にする」ではなく「そもそも書き出さない」を徹底する。ホワイトリスト方式(02章)が、この物理分離を構造的に保証する。
次の実装ステップ
- 公開フィールドのホワイトリストを確定する。02章の 🟢 一覧を正式定義し、射影処理の唯一の公開定義とする。
- 既存エンリッチ処理を「公開射影」へ拡張する。名店マスター → 手形公開シートへ、公開フィールドだけを自動書き出し。
- Glideアプリを公開シートに接続する。加盟店一覧・地図・スタンプ対象・詳細LPを公開データで表示。
- マスターに「来店実績」フィールドを1つ追加する。手形チェックインの日次集計を書き戻す逆流を実装。
- 順位ロジック(オーガニック)を実装する。世界観適合+評価+チェックイン実績+距離で内部スコア算定。数値は非公開。
- スポンサー枠・PR表示・バッジ掲出を別レーンとして実装する。「PR」ラベルを標準装備。
- 送客レポート(月次PDF)の雛形を作る。店単位の来店実績を可視化。プレミアム会員の主力商品として営業に載せる。